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世界の頂点をめざし、パラスポーツの裾野を広げたい!日立ソリューションズ「チームAUROEA(アウローラ)」の選手・監督が、日常の素顔から大会日記までをお届けします。

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日立ソリューションズ「チームAUROEA(アウローラ)」の選手・監督が、
日常の素顔から大会日記までをお届けします。

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教えて桜井智野風先生!-久保恒造選手、馬場達也選手の進化形 前編

教えて桜井智野風先生!-久保恒造選手、馬場達也選手の進化形

チームアウローラ車いす陸上競技部の久保選手と馬場選手は、最近の大会で自己記録を次々と更新しています。二人をご指導いただいている桜井智野風先生は、桐蔭横浜大学教授として、運動生理学、スポーツ科学、トレーニング科学を専門に研究と教育に携わっています。今日、馬場選手と一緒に、久保選手、馬場選手の進化の秘密と現在地について伺いました!

 

現在桜井先生が行っている、久保選手、馬場選手への指導の内容を教えてください。

久保選手は、すでにトレーニングに関して相当な知識を持っていますので、ほぼ自分で計画して実行できるようになっています。時々、メールや電話で私にアドバイスを求めてくるのですが、おそらくもう自分の中で答えを持っていて、私に後押ししてほしいのかなと思っています。

馬場選手は、久保選手とは障がいのクラスも違いますし、私も学ばなければいけないことが多いと思っています。馬場選手は、筋肉トレーニング(筋トレ)が好きで、最近はすごく絞れてきて動ける身体になってきています。昨年は筋力アップに加え、身体の動かし方を指導してくれるトレーナーさんについたりなどもしましたね。

今は、走ることに集中しています。車いす陸上競技では、レーサーの車輪を回す際に重要なのは、筋肉による力の強さより、力をうまくレーサーに伝えていくスキルです。ただ筋肉をつけても重たくなるだけですので、効率的に力をレーサーに伝えられる方法を試行錯誤しています。

桜井智野風先生と馬場選手

先生が、車いす陸上の選手を指導する上でどのようなことを気を付けていますか?

久保選手は、高校生で事故に遭ってから車いす陸上の世界に入りました。私が2012年に指導しはじめてからこれまでを見てきて、筋肉がすごく変わってきました。これだけ変わるのは、興味深いことです。
車いす陸上の選手は腕の筋肉をとても使いますので、状態の変化をよく見るようにしています。

また、スイスでの国際大会のレースなどを見ていると、ウォーミングアップをどこまできちんとやるかなど、まだ国によって差があることが分かります。スイスやロシアなど強いチームは、ローラーを何十台と並べてマックススピードで何セットもやってからレースに出るなど、入念な準備をしています。日本チームはそこまでやってないので、これから強くなるためには、必要なことだと考えています。

確かに、準備という点では、レース前にトラックを回って、スタート加速の50mくらいを何本かやってからレースに向かうという感じで、あまり意識していないですね。

馬場選手の写真

私は、過去に日本陸上競技連盟のオリンピックスタッフとして選手の筋力アップなどのサポートに携わっていましたが、健常者の陸上選手は、レース前にものすごい勢いでアップして、少し休んでからレースへ向かいます。筋肉は急には動きませんから、血流を回しておく必要があるんですね。車いす陸上でも同じだと思います。

車輪を回すために、手で漕ぐ際の速さが大切なのでしょうか。力の強さでしょうか。

スタートのときは、腕を早く回して速度を上げることを意識していますが、ある程度スピードが乗ってきたら力の強さを意識しなきゃいけないなと思います。

車椅子に人が乗って漕ぐときに、最初は前側を漕ぐのですが、そうすると前輪が浮くことになります。

しかし、強い選手を見てみると、斜め下から後ろの方向を意識して漕いでいます。短距離では特にその傾向が強いです。手が長い選手は、その力を車いすに伝えやすいので有利です。

馬場選手は、車輪の前側を漕いでいるからの前輪が浮いてしまいがちです。できるだけ斜め下から後ろへ漕ぐようにしたいですが、人によって身体も違うので、いろいろな方法を試しながら考えていきたいですね。

車輪を漕ぐ図

私のように手が短い選手はどうしたら良いでしょうか。

桜井智野風先生

工夫が必要ですね。体を斜め前に倒して漕ぐ練習をした方が、力は伝わりやすくなると思います。
レースの始めの方では、車輪の前側を漕いだ方が加速度は大きいですが、真下に向かって漕ぐと車輪を回そうとしているだけで前に進めません。前進する力を大きく伝えるためには、斜め下から後ろへ漕ぐことが必要です。
個々の選手によって身体のつくりは異なり、自分に合った形は絶対あるはずだと思います。ぜひそれを見つけていきましょう。


桜井智野風先生
(桐蔭横浜大学教授)

1991 年、横浜国立大学大学院教育学研究科保健体育学専攻 修了。2014 年4月より桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部ス ポーツテクノロジー学科教授。 『走りのサイエンス』『不調を治す50 の習慣』など著書多数。 日本陸上競技連盟普及育成部委員。日本トレーニング科学会 理事。